テキスト→Introduction to Applied Linear Algebra – Vectors, Matrices, and Least Squares
10.4 QR分解
正規直交列を持つ行列
グラム行列の応用として、我々は 次元ベクトル が正規直交であることを、行列表示を用いて次のように簡潔に示すことができる。
ここで、 は列ベクトル を持つ 型行列である。正規直交列を持つ行列に正式な名称はないが、 を満足する正方行列は直交行列と呼ばれ、その列は正規直交基底をなす。直交行列は様々な場面に応用される。
我々はすでに単位行列、二次元の反転・回転行列 (129ページ)、置換行列 (132ページ) といった直交行列に出会っている。
ノルム、内積、角度に関する性質
型行列 の各行が正規直交であるとし、 と を任意の 次元ベクトルとする。いま、 を に移す関数 を定義すると、次の性質を得る。
- よって、 はノルムを保存する。
- は2ベクトルの内積を保存する。
- はベクトル間の角度を保存する。
上記の三つの方程式において、左右のベクトルの次元が異なっていることに注意されたい。左側は 次元、右側は 次元である。
これらの性質は簡単な行列の性質を用いて証明できる。まず、二つ目の性質「 の乗算は内積を保存する」から始める。
二つ目の性質から、我々は一つ目の性質を導くことができる。 とおくと となり、両辺の平方根をとると が得られる。三つ目の角度の保存は、一つ目と二つ目の性質から得られる。
QR分解
我々は で示したグラム-シュミットの正規直交化法*1 を行列を用いて簡潔に表現することができる。 型行列 の各列 は互いに線形独立であるとする。独立な次元の非対称性により、 は縦長の行列となる。つぎに、 次元ベクトル にグラム-シュミットの正規直交化法を適用したベクトル を列ベクトルにもつ 型行列 を定義する。 の正規直交性は行列表示で と表現できる。我々は と の関係を次のような方程式
型行列 は正規直交な列をもち、 型行列 は正の対角成分をもつ上三角行列である。 が線形独立な列をもつ正方行列であるとき、 は直交行列であり、QR分解は を二つの正方行列の積で表現する。
QR分解における行列 と の性質はグラム-シュミットの正規直交化法から直接導かれる。 はベクトル の正規直交性から得られる。また、 の各列ベクトル は の線形結合であるため、行列 は上三角行列となる。
グラム-シュミットの正規直交化法はQR分解の唯一のアルゴリズムではない。他にもいくつかのQR分解のアルゴリズムが存在し、それらは丸め誤差が存在する場合はより信頼性が高い (これらのQR分解の手法では の列を処理する順番が変わることがある)。